つかみぞこねる

ヨハネスはというと、それ以来、彼は自分の欲するところのものを髪ひとすじほどの差で的確につかみぞこねるという、おそるべき軽捷さを覚えるようになった。自分が心ひそかに求めるもののなんたるかを知らぬくせに、自分がそれをつかみぞこねるだろうとはわかっている、ということがある。そんなとき、人は鍵のかかった部屋の中で閉じこもって物に脅えたように、なすすべもなく日を過ごすものだ。


ローベルト・ムージル「静かなヴェロニカの誘惑」(古井由吉訳)