趣味で書いてます


昨日は映画の試写会を観に行きました。仕事で。でもそれを「仕事」と呼ぶのはどうなの?って気もして。職業柄、仕事とそうでない領域の区別をつけにくくて、お金が発生するかどうかがひとつの基準ではありますが、最近はたとえば「路字」については「趣味でつくってます」なんて言ったりしてて、もちろんお金が発生しないという理由もあるけど、単純に、「時効警察」の「これは趣味の捜査ですから」っていう言い方に憧れてそういうふうに言っているだけなのです。


とにかく僕は試写会を観に行って、そこにいるはずの、ある人に挨拶するのが目的で、試写室に入ってすぐにその人は見つかった、というか花粉症のマスクをしてたけどすぐにわかって、わかっちゃって、その隣の席も空いてたんだけど、映画を観る前にやっぱり、いきなり「初めまして」とかなんとかやるのって、ちょっと相手にしてみたらうざいかもしれないじゃないですか。映画も台無しになっちゃうというか、隣の席にいたりしたら気になってしまったりして、なんかこの人いま、この映画どう観てるんだろうとか考えたらキリがないし、とにかくダメだと思って。


それで挨拶はあとまわしにして、ずっと後ろのほうの、その人と無関係な感じの席に座ったら、隣の席にいた若い女性が、たぶん雰囲気からして職業は雑誌編集者で、ファッション誌っぽいところに入って1、2年というキャリアだと思うんですけど、きっとちゃんとした堅気の企業に務める2歳くらい歳上の彼氏がいて、それって大学のサークルの先輩だったりするんですけど、それで雑誌の校了前には彼女遅く帰ってきたりして、あ、同棲はしてないんだけどわりと頻繁に行き来というか彼女の家に彼氏が半同棲みたくなってて、それなのに彼氏のほうが先に家に帰って待ってたりして、それで彼女は少しお肌も荒れ気味だから、なんかお前がんばってるけどさーあんま無理すんなよ、とか言われて、それは一種の心配でありながら心配に留まらない、複雑な感情が入り交じった台詞なんですけど、そう言われてうん、大丈夫、好きな仕事だしね、とか健気な感じで答える彼女も、実はいい加減そろそろ仕事に飽きてきたというか、いや、飽きたわけじゃないんだけどちょっとだけ行き詰まっちゃったというか、特に大きな人間関係とか仕事上の不満があるわけではないんだけど、なんかこのまま続けてていいんだろうか、いや別にいいんだけど、みたいな漠然とした不安が頭をもたげつつはあって、でもそんなにじっくりと考える時間もないから、あーなんかそろそろ旅行とか行きたいな、春だしな、くらいのことは漫然と思いつつはあって、でも彼氏は年度末で忙しいし、なんか合わないな、もしかしたら私たち合わないのかな、なんてこともうっすらと考えながら、とりあえず4月になったらいろいろ変わるかも、っていう楽観的というより投げやりっぽい希望を近い未来に託しながら、つまり先送り的にずるずると現実逃避しながら、来月発売の雑誌の記事にするために、この映画を観にきてたと思うんですよ、もちろんこれ全部妄想ですけど。


でも最近思うんですけど、現実逃避ってそんなに悪いことじゃないというか、なんか決めなくちゃとか、そういう場面もたしかにあるとは思うんですけど、例の「自分探し」? あれで自分はこうであると決めなくちゃいけないと迫ってしまう立場も、「自分探し」なんてと切って捨ててしまう立場も、どっちも答えを急ぎすぎというか、じゃあ急いで決めたらなんかいいことあるの、って言ったら、それは確率論的にはいいことがあるということは、いや確率というよりは統計か、統計的には言えるかもしれないけど、でも統計的に「正しい」人間である必要がどこにあるのかと言ったら、その根拠は誰も示せないと思うんですよね。というか、むしろそんなのつまんなくね?みたいな。だからこの妄想の彼女が、別に今の自分自身の気持ちをよくわかってなくてあやふやなんだとしても、別にあやふやでもいいというか、なんか実は正解があったり、ほんとうの彼女の気持ちがあったりするわけじゃなくて、もしかしたら4月には彼女は彼と別れて鍵も返してもらって、それでまた新しい恋とかして心機一転仕事に打ち込むかもしれないんですけど、でもそれは彼女がほんとうの気持ちに気づいたとかそんなんじゃなくて、4月になった時点で、なにかのきっかけでそうなった、ということに過ぎなくて、今の時点ではほんとうの彼女はあやふやの彼女でしかない、それ以上のものは何もない、と思うんですよ。


で、まあそんな話はいいとして、彼女が映画が始まる前にあ、ちょっとすみません、とか言ってなんか下に落としたハンカチかなんかを拾おうとしてモゾモゾしてて、そのすみませんは僕に向けられた言葉なんだけど、なんとなくそれをスルーして無関心を装ってしまって、というかなぜか、そのモゾモゾに反応してしまうのは失礼かなって気がしちゃって、でもそこでいえいえどうも、くらいのことを言っておけば、なんか話のとっかかりが見つかったかもしれなくて、それでお仕事ですか?とかなんとか、話を始めたら実は私こんなことをしてて、こんなことを考えてて、みたいなことになって、仲良くなれたかもしれなくて、結局仲良くならなかったんだけど、仲良くならなくても別にいいっていうか、いいんですけど、あとで明るくなってから見たらちょっとかわいい感じだったので、やっぱり仲良くなってたらよかったなー、なんてことを思ったりもしました。


そして逆サイドの席の男性はなんだか試写会なのにやる気がなくて、ずっと鼻息といびきの中間みたいなスー、ズー、スー、みたいな音を発し続けていたんですけど、映画はそんなことを忘れさせてくれるくらいすごいもので……。いやーこれはこれは。でもその映画についてはここで書けないのでまたいずれ、というか来月あたりにはちゃんと形になるはずですけど、忙しいあまりの現実逃避でくだらないことを書きました。あー、雨が振ってきた。引っ越ししなくちゃいけないのに……。