柴幸男演出『チャイニーズスープ』


平田オリザが初めて青年団以外の外部のために書いた戯曲を、19年ぶりに書き直したもの。東西冷戦の終結によって職を失ったスパイたちが、さらに20年を経過して老いており、舞台も「壁」崩壊直後のベルリンから現代のイスタンブールへと移設されている。そして今回の老いたスパイたちを演じるのが19年前と同じ2人で、演出するのが柴幸男というのがすごい。

素材の三割程度は初演のままだが、台詞はすべて書き換えた。あとは、ベルリンの壁が崩れたときには幼稚園児だった柴君にすべてを任せたいと思う。きっとその方が、面白くなるから。

とはチラシにある平田オリザの言葉。実はかなりドリーミーな組み合わせの公演なのだ。……ということに観に行ってから気がついた。劇場でもプリントアウトされたものが配られているけども、ウェブでも読めるこの「チャイニーズスープのレシピ」は好企画。観る前に読むといろんな意味でドキドキする。(青年団が実はかつて「村の青年団」と呼ばれていたとか。)


そして実際、緊迫感に充ちた瞬間がいくつかあるのだが、それを緩めるようなネタも散りばめられていて、手に汗握って、声をたてて笑える、ユーモラスでキュートなお芝居だった。老いるっていいものだなあ。このキュートさは柴くん独特の手つきかもしれない。ままごとの『わが星』にもこのキュートの魔法のようなものがあって、それが役者さんたちの魅力をすごく引き出していたと思うけども、『チャイニーズスープ』ではそれがおじさんやおじいさんにも通用することが証明された。


けれども、途中は若干ものたりないものも感じた。そのための「料理」だったと思うのだけど、やりとりが単調に感じられる時間もあった。スープはとても良い匂いがしたのだが……。初日を観たので、これからまた変わっていくのかもしれないけれども、舞台にいる2人が、もっと客席のほうに(心理的に)近づいてきてくれたらいいのに、ともどかしい思いで観ていた。私見では、そのほうが「歴史」や「世界」は近づいてくるのではないか、とも思う。その意味では、この特異な設定の演劇は「上手く」ある必要もない気がするし、極端な話、上記の「レシピ」にあるように、たとえ台詞をド忘れするようなアクシデントがあったところで、観客の心の中に持ち帰るもの届くものがあるならばそれでいいのではないか。まだまだこのおじさん(人生の先輩)の魅力は引き出せるんじゃないか? もっと行けるんじゃないだろうか。


11月15日(日)まで駒場アゴラ劇場にて。

http://www.mamagoto.org/soup0.html