〈リア充〉幻想について


来月上旬に発売される仲正昌樹さんの新刊『〈リア充〉幻想 ー真実があるということの思い込みー』(明月堂書店)について、時間がある時に少しずつ書いていこうと思います。上に書いてあるように3/6にはジュンク堂書店新宿店でもイベントがありますので、お時間のある方はぜひいらしてください。


この本の企画で版元にお声掛けいただいたのは1年半くらい前で、その間、ぼく自身の身辺にも様々な変化があり、仕事のやり方も変わってきました。なので、その本がようやくいま刊行されることになって、自分としては戸惑いがないわけではありません。不思議、というか。自分としては移ろっているのに、本は固定されたものであるのか? とか。うまく言えませんが、最近は雑誌とか、時宜的なメディアに携わることが増えていたせいもあります。


で、これは仲正さんの本なのだし、編集者は黒子なのだから、と割り切って考えることもできるのでしょうが、そういうのは責任の取り方としてどうなの? という気持ちも一方にはあって、それで前書きを編集部名義で書きました。特に、内容として、秋葉原の無差別殺傷事件を扱っているので、こちらも真摯に取り組まなくては、という気持ちもありました。


この場面は本の中にも出てきますが、実際に秋葉原のあの交差点を仲正さんたちと歩いた時、なんとも言えない気持ちに襲われたのを覚えています。ある人間が、ルサンチマンを抱えて、世の中を恨み、暴走してしまう。その負の感情の強さというものを考えると、おののかずにはいられませんでした。


考えてみれば、ぼくが小説を書くようになった理由はいろいろあって、チェルフィッチュとの出会いとか、キレなかった14才♥りたーんずに関わったこととか、大谷能生にとあることを言われたこととか、あるんですけど、実はこの『〈リア充〉幻想』という本の取材を通して秋葉原の事件と関わってしまったこと、仲正さんと一緒にあの交差点に立ったこと、というのも大きいのかもしれないです。あの日、我々は秋葉原を歩いて人生初のメイド喫茶(!)に行き、そのあと最後の収録を行ったのですが、そこで仲正さんが、世の中の明るさとか暗さについて語られていたのが印象的でした。(詳しい内容は本を読んでいただければと思います)


ある人間が、世の中の明るさを忌み嫌って、暗い世界へと没入していく。それはたぶん不健全なことなのですが、ぼくはどうにもそこが気になってしまうというか、その人間を、心底憎むことはできないような気がするのです。たぶんその、暗闇へのシンパシーのようなものが、ぼくの中で様々な衝動を生んでいるのだとも思います。


時間ですので、今日はこのへんで。