柿喰う客『いきなりベッドシーン』@王子小劇場


基本的にネガティブなものは遠ざける方向で日々を過ごしているのだけど、どうもここ数日は闇を見てしまう傾向があって、困ったものです。本当は自分、ネクラなのではないかと思ったりもする。楽天的で軽薄なのはきっと世を忍ぶ仮の姿なのだ……。とかとか、まあそれはいいとして、ほんとは葛生さんに教えてもらったストローブ=ユイレの『アメリカ』を観にアテネフランセに行きたかったのだけど、時間の関係でどうしても行くことができず。代わりに20世紀を代表するある著名な作品をDVDで観たところ、冒頭からまさに闇。あまりの美しさに打ちのめされてしまう。




さて、王子小劇場で柿喰う客の一人芝居『いきなりベッドシーン』&続いて『いきなりキスシーン』。クリシェ、繰り返し、饒舌、歌舞伎? あらゆる物語がネタやキャラクターやコンテンツに分解され消費される現代において、あらためて〈物語る〉とはどういうことだろうか、という問いに柿喰う客はひとつの挑戦をしているのだという印象を受けました。演出家の中屋敷法仁くんは見た目がちょっと王子っぽいのに、この柿喰う客の熱量はなんだろう……。役者の唾は飛ぶ。汗も流れる。鍛え抜かれた身体と舞城王太郎ばりの高速な饒舌、そして根っこにある恐ろしいまでのサディズム。まだまだ増殖しそう。そういえば『いきなりキスシーン』で2本のスポットライトが舞台を照らすシーンがあって、それが、暗闇の中に開いた窓から光がさしているように見えた。別にそれを「希望」と呼びたいとかそういうことではなくて、ただ単純にあの光は美しかった。


アフタートークでは「女子高生」というモチーフについて語られていたけども、女子の饒舌に関しては僕も気になっている。期待と裏切りを孕んだ饒舌。……饒舌体はアカデミズムや正統性を重んじる文壇とかからはあまり真っ当な評価を得ていない気がするけれど、ドストエフスキーから舞城王太郎にいたるまでの饒舌の系譜というものはきっと確実に存在するはずで(隔世遺伝かもしれないが)、その先に柿喰う客がいるのは明らか。ぜひこの方向で(さらにもっと泥沼の中で)快足を発揮していただきたいものです。

http://kaki-kuu-kyaku.com/nextstage.html




というわけで一時的にテンションが回復したものの、帰宅途中で再び例の闇のイメージが襲ってきて瀕死の状態になる。ダ、ダメポかも……とか思っていたら突然意外な方からメールをいただいてびっくりする。すぐにもお返事を書きたいけども、日をあらためてしたためることにいたします。明日はタナダユキ俺たちに明日はないッス』初日、それから法政大学でのイベント「アクロス、ザ・ユニバース」に向かいます。