浮雲


林芙美子原作、水木陽子脚色、藤本真澄製作、岡本喜八助監督、成瀬巳喜男監督の『浮雲』。ゆき子役の高峰秀子の演技には思わずゾッとする。そして恋仲に陥った女を次々と転落させてしまうという、おそらくは20世紀最大のダメ男・富岡を森雅之が見事に演じているのだが、傷ついては別れ、そしてまた復縁を繰り返す二人を観るたびに「ああ、またか……」と思わずにはいられない。そりゃ、高峰秀子が演じる女の魅力にやられてしまって、ついよりを戻してしまう男の気持ちはわからなくもないですよ。でもどうして女が男にここまで惚れるのか? ダメ男・富岡は果たしてそこまで魅力的だろうか? ダメンズウォーカーの心理は謎である。女性がこの映画をどう観るのか聞いてみたい。


仏印ダラットの思い出を喚起させるいささか大仰でエキゾチックな音楽と、各シーンのフェイドアウトが効果的。あと脇役では、伊香保で出会う運命論者の「めぐりあわせ」おじさんを加藤大介が好演している。




(ちなみにまったくの蛇足だけど、ここまで成瀬巳喜男林芙美子高峰秀子の作品を3作観たかぎりでは、僕がかつて捨ててきたはずの感情や体験をまざまざとスクリーンに体現しているようなところがあって、親近感と同時に嫌悪感をおぼえざるをえない。どうもいかにも困惑する。あと人が病気で衰弱していく話はそろそろ勘弁してほしい……、いま真面目に風邪をひいてるのでマジで死ぬんじゃないかとか心配になってしまうから。)


浮雲 [DVD]

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