赤ちゃん教育


ハワード・ホークスの『赤ちゃん教育』(1938年)。結婚を翌日に控えた考古学者/動物学者のデイヴィッド(ケーリー・グラント)が、超わがまま娘のスーザン(キャサリン・ヘプバーン)に振り回されて結婚の約束を台無しにしてしまうスクリューボール・コメディ*1。シュールな題名だが、原題は「Bringing Up Baby」で、この「Baby」というのは人間の赤ちゃんではなくて豹のこと。ある日スーザンのもとに豹が送られてきて、それを叔母の家に送り届けることになったのだが、その叔母というのが金持ちでデイヴィッドの博物館に100万ドルを寄付するかどうか検討中で、そこに弁護士やら心理学者やら警察やらサーカス団やらが絡んできて……とすでにあらすじを説明するだけでかなり面倒くさいと思うくらい雪だるま式にトラブルが膨らんでいくお話です。


とにかくこのスーザンという娘が超どうしようもなくいい加減でワガママで自分のことしか頭にない女で、ジャイアニズム(私のものは私のもの、あなたのものは私のもの)の信奉者であり、持ち前のドジっぷりを発揮して次から次へと事態をややこしくさせていく上に、対するデイヴィッドが史上稀に見る腑抜けの優柔不断男ときたものだから事態がいっこうに収拾せず、何もかもがとッ散らかっていく感じになってだんだん腹が立ってくるのだが(映画観ながらブツブツとこんなにツッコミを入れたのは初めてかもしれない、苦笑)、それも突き抜けてくると「ま、いいか」という感じでなんでも許せてくるから不思議なものです。なにかしら悩んでいる時に観たらすべての事柄がどうでもよくなると思うので、おつかれの人にはオススメですよ(ただし最後まで観ないとかえってストレスが増幅されるかもしれないので注意)。


しかしそれにしても、ケーリー・グラント扮するデイヴィッドが「とんちんかんな研究バカだけど、実はメガネをはずしたらいい男」という設定であることに象徴されるように、「メガネ萌え」というような観念はおそらくこの時代にはないのでしょうね。だってどう考えてもワガママ娘のスーザンより、「子づくりもハネムーンもナシ、なにしろ結婚するのだって研究に少しでも貢献するためなんだから」とか言ってる研究命の堅物のフィアンセ(メガネ女子)のほうが今の時代に生きる僕としては全然グッとくるんですけど。



赤ちゃん教育 [DVD] FRT-117

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*1:ある時期のハリウッドではヘイズ・コードによって露骨な性的描写ができなかったために、そうした描写以外で恋愛を表現する手法が発展して、そのひとつがスクリューボール・コメディだったのだ、と葛生師匠が言ってたような気がします。