トンネル


ゆうべは、新宿眼科画廊のイベントに行きたかったんですけどね、なんせ兄が二日酔いでぐったりしていたので、私もおとなしく家にいました。オバマ氏の就任演説を観たり。21世紀に生きてるんだな、私たちは、という感触がありました。どうもああいう演説の言葉を聴くと、「私たち」という感覚が根付いてしまうものですね。


式典では象徴的に、宣誓や聖書などの〈信仰〉と、歌や演奏などの〈芸術〉とが、〈政治〉をオーソライズするために動員されていたのだけど、こういう三位一体は日本ではありえないですよね。ある意味では「君が代」がそれを全部やっちゃうから、他に打つ手がないのかもしれないけど、それにしても日本には、〈政治〉を盛り上げるための演出のノウハウも、それを語るための成熟された言葉も、育たなかったんだなーと思ったりする。


しかし私たちだって(というのは別に「日本人」って意味じゃなくて、広く一般に「人は」って意味だけど、その私たちだって)歌うし、踊るし、演じるし、撮ったりもするし、そして書く/描くのだ。それを芸術と呼んだり、アートと呼んだり、芸能と呼んだり、呼び方はなんだっていいのだけどそういうことをする、って時に、それがアメリカのように、オバマというひとつの象徴的な個性に結びついていくことはたぶん絶対にないけど、世界に存在する(グラウンド・ゼロであり、皇居であり、太平洋であったりする)空虚な中心と、私たちの心の中の空洞とはどこかで繋がっていて、それに引っ張られるようにして私たちは何ごとかをする。〈政治〉も〈信仰〉もない土地で、私たちは〈芸術〉によって、かろうじて世界との繋がりを取り戻すというか、そこで生きられるようになるというか……。これは直感だけど、私は動物(生き物)に戻るために、そういうことをしているような気がします。


明日新宿のジュンク堂トークイベントがあるからかもしれないけど、ふいに五反田団の『すてるたび』の、あの暗いトンネルのことを思い出しました。