4×1h project play#2


新宿シアターミラクルで、ゆうべ、4×1h project play#2『ソヴァージュばあさん/月並みなはなし』を観てきたんですけど、いやー、脚本:黒澤世莉、演出:中屋敷法仁の『月並みなはなし』にびっくりしました! 天才・中屋敷法仁はほとんど変態の域に到達してるわ!!!と思わず尊敬のまなざしでキラキラしながら観てしまった☆


お話としては、月への移民選考に洩れた人たちが残念会を開いているところに、ひとりだけ追加募集で月に行けるというお達しがくる。制限時間は60分、その中で誰かひとりを選ばなければならない、さあどうする!?、というもの。この戯曲への中屋敷さんの演出は、男女が逆転し、左右に分裂した人々が、シンクロするようにしながら高速で演じていくっていうやり方。左右のシンメトリーの中央にいるのは、両耳をもったミミ(百花亜希、マジカワイイ)だ。ところが、最初は単なる受動的な傍観者(まさに耳)であったミミが、徐々にその不穏で冷笑的な存在感を顕わすにつれて、シンメトリーは崩壊していく、と共に、このまさに「月並みなはなし」は、ありえたかもしれない様々な可能性に向けて一気にひらかれていく。


一時期のポツドール三浦大輔)が、あえて不愉快な感情を呼び起こすことで「現在」を批判し、観劇者のスノッブな知性や、シニカルな感情を満足させることで成功を得たとするなら、中屋敷法仁は、むしろ不愉快を駆け抜けることで快感のレベルにまで昇華し、それでどっかへ行こうとしているような気がする。どこへ行こうとしてんのか私にはわかんないけど、でも「どこ行くの?」と気になってしまう存在っていうか、次も観たい、と思わせられちゃうから、うまいなあ、天才だなあ。でも単なる勢いだけじゃなくって、速度がスローリーになった時にこそ、この演出家の底意地の悪さが出ますね。この人こそ、月にいっちゃったらいいんじゃないかな。月にいっても演劇やってそうだし。




いっぽうの『ソヴァージュばあさん』は、モーパッサンの原作をもとに谷賢一が書いた戯曲を、黒澤世莉が演出したもの。おそらく普仏戦争が舞台で、フランス語しか話せないソヴァージュばあさんの家に、プロシアの兵士たち3人がやってきて、疑似家族を形成していく。


背景に流れる淡々とした、でも力強い映像とか、役者の不気味さとか、チクタクと刻まれるメトロノームとか、そのゆったりとした時間感覚が面白い。ほとんど、いろんなものを”気づかせない”という演出。あれだけ静かなのになぜか飽きなくて、最初は短すぎるかなって思ったけど、考えてみれば、この演出は思いきった「省略」をしているはずで、その省略されたものの不在の大きさにあらためて(昨夜の記憶をたぐり寄せるようにして)気づくと、やっぱりあの長さで良かったとか思ったり。うーん、後からじわじわ良くなってくる、というのは不思議だわ。あとカーテンコールで「あっ」と思ったことが2コばかしあったんですけど、まあそれは無粋なので、心に留めておきますね。


1月30日まで、新宿シアター・ミラクルでやってます!
http://blog.livedoor.jp/project4x1h/archives/667125.html