時間堂『スモールワールズエンド』


昨夜は、時間堂のワークインプログレス(試験公演)を観に行きました。上演されたのは『スモールワールズエンド』の中から、マリヴォー「奴隷の島」とアゴタ・クリストフ「星々を恐れよ」の2本。「奴隷の島」はきわめてグロテスクなユートピア的風刺作品。でもキュート。お笑いとアニメと演劇の融合。痛快です。いっぽうの「星々を恐れよ」は素晴らしいのひとこと。翻訳文学を読む時のような、だんだんチューニングを合わせて、いつのまにかスッと言葉が入ってくるようになっているあの感じ。元の戯曲が特異でも派手でもないのに物語を「読ませる」演出というか、いうなれば「文体」があるんですよね。とても落ち着いた気分で見られました。本番にはきっと完成度も高まってさらに良くなるのでしょう。本公演は21日(水)からのようです。

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時間堂は鈴木励滋氏からその存在をかねてより聞いてはいましたが、実際に観たのは黒澤世莉さんの演出作品を一本新宿で、それから夏に渋谷のギャラリー・ルデコでやってた『花のゆりかご、星の雨』を観て、そして今回の『スモールワールズエンド』なのでそんなに詳しくありません。で、今日の今日まで知らなかったのですが(それくらい調べとけよ、って感じですが)、「デートは劇場で。」みたいなキャッチフレーズをHPでは謳っているようです。つまりこれは、映画を観たり、旅行に行ったり、カフェで美味しいものを食べたり、といったような日常的だけどちょっと特別な消費行動のひとつに、演劇という選択肢があってほしい、というメッセージなのだと思います。コンセプトとしては、キラリ☆ふじみがやろうとしてることにも近いのかも。ただ時間堂は、都会ふうのちょっとオシャレな劇団ではあると思います。なんせほら「デート」ですから。敷居の高いオシャレではないですけど。


夏に観た時も思ったことですが、とても丁寧に、演劇のある時間というものを大切にして作品がつくられていると思います。でも、つくりこまれて窮屈だ、という感じは全然しなくて、わりとくつろいで観られると思うんですよね。俳優の存在感とか、戯曲の世界観といったもの、そして演劇的な時間が、そのまま日常まで余韻として残るような。だから見終わったあと、ちょっとだけ(劇的にではなく)世界の見え方とか色合いが変わるような。


ところで、行ってみればわかりますが王子スタジオ1という、新しくできたこの劇場がガラス張りであるのはとても面白いと思いました。それで通りがかった会社帰りの人とか、近所の子供たちも観に来てる。子供がふつうに「奴隷の島」を見てるんですよ。なんかいいなあ、と思いました。