DVD「ガスパール 君と過ごした季節」

南仏プロヴァンスに海辺のレストランをつくろうとして、廃品回収に精を出す文無しのロビンソン。ある日、実の息子に捨てられた老婆ジャンヌをも連れ帰ってしまう。失業仲間のガスパールは「追い出せ!」と大激怒。おまけにロビンソンは貧しい子連れの未亡人に一目惚れし、開店前のレストランには疑似家族が形成されていくのだった……という、よくあると言えばよくある、社会の底辺に生きる者たちの交流を描いたハートフルなコメディ。


監督のトニー・ガトリフは、「ガッジョ・ディーロ」「僕のスウィング」「トランシルヴァニア」など、ジプシー音楽にフォーカスした映画で近年注目度を増している。1990年フランス公開の本作も、たぶんそのおかげで晴れてDVD化の日の目を見た(同時発売のコレクターズBOXにもこの作品は収録されている)。音楽にはたいへんなこだわりがあって、「トランシルヴァニア」では「ラブソングは嫌い」とまで登場人物に言わせたガトリフだが、この映画の音楽担当はなんとあの巨匠ミシェル・ルグラン。そのせいか、全体のトーンはクラシックな(古色蒼然とした)ヒューマンドラマふうの仕上がりになっている。


だがこれが意外に良いのだ。テンポもあるし、コメディらしい小ネタも効いてるし、おばあちゃんは可愛くて、未亡人は美しい(美しすぎる)。別れた妻への未練を捨てられないガスパールがこれまた憎めない性格で、途中、「思い出の曲」が何度もリフレインされるシーンでは思わずつられて泣き笑うこと必定。いや、楽しい。とにかく全編にわたって人生を肯定したくなるようなポジティヴな魅力に溢れていて、いやーまさか、厚く雲の垂れ込めたシリアスな映画を撮る(あくまで個人的なイメージです)トニー・ガトリフが、南仏の空と太陽をこんなに明るく描いていたとは! 


出会いと、その関係を継続することの不可能性、そして別れ、という一連の流れを描きつづけるこの監督らしく、最後はやっぱりアレがアレするという感じだけれども、とはいえ悲哀の色はほとんど見られず、どこまでも理想的で楽観的に思えるのは、やっぱり南仏という土地の魔法のせいかしら。惜しむらくはタイトル、ふつうに「ガスパールとロビンソン」で結構です。


トニー・ガトリフ コレクターズ BOX [DVD]

トニー・ガトリフ コレクターズ BOX [DVD]