成瀬巳喜男『稲妻』


成瀬巳喜男の『稲妻』(1952年)。うわー、もう鼻血でるかと。全身から体液が溢れ出るような感じ。ラスト5分は滂沱の涙で、スクリーンをまともに観られず。これが「東京」だ。これが「女」なのだ……。


娘・高峰秀子と母・浦辺粂子があまりに素晴らしすぎる。林芙美子原作で、セリフが効いていて、とはいえ一方ではそのセリフを喋らされていると感じるところはなくもないけれど、それも含めて映画として完璧に仕上げてしまうこの成瀬巳喜男の力量たるや、凄まじい。長回しはほとんどなく、角度を変えてショットを重ねていく感じだが、原作および、脚本を元にしてそれをなぞりながら、それを超えた何かを明らかにフィルムに焼き付けているのがすごい。こんな映画は他に観たおぼえがない。深刻さと軽妙さとが、このように同居できるとは!


兄妹4人の父親がすべて違うというのは、是枝裕和の『誰も知らない』になんらかのインスパイアを与えているのかもしれない。でも差し当たって、そんなことは関係ない。1950年代の東京の風景がカメラに収められているという点で資料的価値もある。でもそれもどうでもいい。とにかくもう、完全にノックアウト。半世紀以上前に、自分にとってもっとも重要な映画がすでに撮られていたと言いたくなるほどの気持ち。

稲妻 [DVD]

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