スワンプ・ウォーター


ジャン・ルノワールの作品でツタヤでDVDで借りられるものがこれだけだったため、イヤな予感がしながらもやむなく選んだのだが、やはり予感が的中してしまったというか、これは明らかに失敗作というべきだろう。いくら前近代的な西部劇といっても、人間がここまで単純バカに描かれていると退屈でしかたがない。普段は駄作に接した時は完全にスルーすることに徹しているのだが、諸事情により必要なので書くことにする。


主演のダナ・アンドリューズが演じる若い猟師ベンは、少々ハンサムなのと何度殴られても次の日には相変わらずのイケメンに復活するタフな身体の持ち主であることをのぞけば、思慮に欠けた浮気者であり、勇気と蛮行とを勘違いした愚か者にすぎない。フランスから亡命したばかりで、慣れないハリウッドでの戸惑いがあっただろうし、様々な事情もあったのかもしれないが、それでもこうした駄作を撮ってしまったことは映画作家ルノワールにとって致命的だったろう。このわずか2年ほど前に『ゲームの規則』(1939年)を撮った監督の作品だとは到底信じられないほど、ユーモアの欠片もなく、ただひたすらに美男美女がくだらないメロドラマを上演するばかり。脚本は『駅馬車』の脚色をしたダドリー・ニコルズだが、こんな陳腐な話で人が喜ぶとでも思っているのだとしたら、観客をナメてんじゃねえだろうか。どの人物をとってみてもあまりに底が浅くてげんなりする。


唯一の見所はつまらないことで喧嘩をする殴り合いのシーンだが、アクション映画として観ても全体に迫力がなく、情状酌量の余地はない。最後まで観れば何かいいものが見つかるかと思ったが、湿原のバトルでさえスリルは皆無で、無駄な時間を過ごすのみだった。最初のほうに出て来る「世の中にいる人たちは思ったよりも善人だ、だが本当の悪人もいる」というセリフのあたりは、おっ、ルノワール語録の開陳か、と期待に胸を膨らませたのだが、それさえも単なる勧善懲悪の予告にすぎなかった。ハリウッドの悪い癖が出た。


環境にフィットしなければ才能は発揮されないということの好例。魚は陸では泳げない。