酒が美味しくなってきた


このところずっと体調を崩していたので、お酒は控えめにしていたのだけど、今日はかつて一緒に住んでいたこともあるO君の誘いに乗って、少し大事な話もあったので、近所で飲むことにした。彼もなかなか今年は苦労したみたいだけども、今は調子いいんだろうな、というのがなんとなくわかる。でも僕としては、調子がわるい時でもいいから、ダメな時こそ声かけてくれよ、と思ったりもする。


日本酒を飲もう、ということになり、どれにしようか迷っていたら若い店員さんが「これがオススメです、ボクの故郷のお酒なんです」と言って指さしたものがあって、それは僕の故郷の酒でもあった。同郷の人に東京で会うのはとてもめずらしいし、しかもこんな近所で、と思うとやはり少し嬉しくなる。ちょうど、その時O君と話していたのが、将来的に田舎に帰ろうとかいう気持ちがあるの?といった感じの話題で、僕は、今度田舎に帰るようなことがあったら別に死んだって構わないと思う、もうそれなりに満足のいく人生を送ったし、というようなことを、半分本気半分冗談で、まあ冗談で口にするようなことではないのだけど酒の席だしということでリップサービスして、その直後にその青年が「ボクの故郷のお酒なんです」というようなことを言ったものだから、いずれもっとテクノロジーとか人間関係の有り様とか、いろんなことが変化したら、田舎に帰って何かひと仕事してみるのも面白いのかもしれないなと考え直したりもした。人間をつくっているもののうち、水と、食べ物と、言葉は、周囲の環境次第だから、やはり住む場所によって全然違う人間になるんだろうなということを、そういえばこないだ大阪から来た人と話した時にも思ったのだった。でもすでに、僕はこちらにいる時間が長過ぎてもはや「田舎に帰る」という感じでもない。行くなら、新しい人間として、新しい土地で生きるつもりで行きたい。たぶんまだどこにも行かないけど。


東京に出てきて何年になるんですかと訊いたら、その青年は「4年です。ギターをやっていて、それでこのお店にもお世話になってるんです」と言った。なんだかとてもいい雰囲気の人だと思った。