北北西に進路を取れ


ヒッチコックの『北北西に進路を取れ』(1959年)。まずメトロ・ゴールドウィン・メイヤー提供の映画ってことで、オープニングの輪っかの中でライオンが吠えているのが嬉しい(『トムとジェリー』でトムが真似してるやつ)。主人公役のケーリー・グラントは、『赤ちゃん教育』のあのおマヌケな人物と同じとは思えないほど知性あふれるキャラクターになっており、たいそう魅力的な人物である(最初はただのマザコンのぼっちゃん社長だが、列車のシーン以降、急激にヒーローとしての自分に目覚める)。オークションの場面でのピンチの切り抜け方とか、なるほどなー、という感じ。そしてヒロイン役のエヴァ・マリー・セイントがあまりにも色っぽく、こんな美女になら騙されてもいいやと思えるので細かいところは差し置いてもストーリーの説得力は抜群! さらにさらに、悪役の右腕を演じているのがなんと若き日のマーティン・ランドー!!! テレビシリーズの『スパイ大作戦』をたぶんほとんどすべて観ている者としては、あまりにも嬉しすぎるキャスティングでした(『スパイ大作戦』では彼は変装の名人、ローラン・ハンド役なのだ、っていうかこの『北北西に進路を取れ』で人気が出てテレビシリーズに出ることになったんだろうなってことが容易に想像できる)。


飲酒運転のシーンなんかは今だとシャレにならないだろうけど、ホテルのメモでの鉛筆トリックとか、病院で隣の部屋に侵入した時に寝てた女が「待って!」を二回言うのとか(二回目はケーリー・グラントがハンサムであることに気づいて色っぽくなる)、小ネタ満載で楽しい。例によってオープニングは視覚に凝っていて、ヒッチコックの奇抜なセンスを感じられる作品。にしても、ヒッチコックは高所恐怖症の人には優しくないよね……。そういう意味で、観るとぐったりしてしまいます。