続・河内山宗俊


……と兄が思わず出てきてしまう、って気持ちもわかります。けど、それをどう表現していいものか、言葉が見つからない、ということはやっぱりあるのだと思います。こういう時こそ批評の言葉がほしい。


役者についていえば、まだ超若い原節子がめちゃめちゃよかったです。原節子ちょっと苦手かも、と思ってたけどそんな考えも完璧に刷新されました。主演の河原崎長十郎は戦後共産党員になって舞台から遠のいてしまったそうで、それはなんとも惜しい、と思われます。ほんとに魅力的。映画史上、いや人類の歴史上、もっとも好きなダークヒーロー、として名前を挙げてもいいと思うくらいの存在に浮上しました。あと加東大介が昔の名前で出てましたねー。市川莚司。でも演技は同じ(笑)。あと役者の名前がわからないんですけど、『百万両の壺』では屑屋をやってて、この映画では競り市で思わず賭け値をあげてしまう顔がひょろ長の人、、、がよく知ってる喫茶店の店主にめっちゃ似てて笑えます。


でも、そんなこともどうでもいいじゃないの。


この映画はユーモアのセンスが、まず抜群に素晴らしいんですけど、そういう愛すべき人たちが、その下に複雑な感情を抱えていて、でもそれは語りのモードとしては現れない。トトテテシャンシャン、というリズムによって続いていく物語はただ物語としてひたすら機能していく。でもそれは、冷徹ということではまったくないのです。そしてあの、鮮烈なラスト。彼女のために男たちが揃いも揃って命を賭けているという、その当の原節子が、いっさいスクリーンに出てこないという、、、。あと、そうだ、あの猫とか。「ムダ飯食ってる」というセリフが出て来るところの猫。猫をあんなにみずみずしく撮る人ってあんまり観たことない気がします。そういえば成瀬巳喜男の『流れる』の猫もよかった。もうなんとも書きようがないです。


河内山宗俊 [DVD]

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