「翻訳者の課題」接線と円の比喩


三省堂、仲正さんのベンヤミン講義第二回、テキストは「翻訳者の課題」(岩波文庫『暴力批判論』所収、野村修訳)。

他言語のなかに呪縛されていたあの純粋言語を自身の言語のなかで解き放つこと、作品のなかに囚われていた言語を改作のなかで解放することが、翻訳者の課題である。この課題のために翻訳者は、自身の言語の腐朽した枠という枠を打破する。ルターもフォスも、ヘルダーリンゲオルゲも、ドイツ語の限界を拡大してきた。このことから、翻訳と原作との関係にとって意味に残される意義は、ひとつの比喩で捉えられる。接線が円に瞬間的にただ一点において接触するように、そして法則に従ってさらに無限のかなたへ直線的に延びてゆくことを接線に指示するものが、この接触ではあっても接点ではないように、翻訳は瞬間的に、かつ意味という無限小の一点においてのみ原作と接触したのち、忠実の法則に従いつつ、言語運動の自由において翻訳独自の軌道を辿ってゆく。(p88)